医師によるWHO補完食ガイドラインの解説
WHOは2023年10月に、生後6〜23か月の子どもの食事についてガイドラインを出しました。「補完食」という考え方のもとになっている文書です。
推奨は7つあります。この記事では、その7つを保護者向けに短くまとめました。日本の「授乳・離乳の支援ガイド」と違うところは、並べて書いています。
対象は、世界中の6〜23か月の子どもです。日本のような豊かな国も含みます。母乳を飲んでいる子も、飲んでいない子も対象です。
WHOにはこれまで、母乳の子向けと、母乳でない子向けの2つの指針がありました。2023年版は、その2つを置き換えるものです。
ここに書いたのは、著者が英語の原文を読んで要約したものです。WHOが作った日本語訳ではありません。正式なものは、英語の原文で出典にのせています。
「強い推奨」でも、根拠は弱いことがあります
それぞれの推奨には、印が2つついています。ひとつは推奨の強さで、「強い」と「条件つき」があります。
もうひとつは、根拠の確かさです。「高い」「中くらい」「低い」「とても低い」の4段階です。
7つの推奨の多くは「強い推奨」です。ところが根拠の確かさは、ほとんどが「低い」か「とても低い」。ガイドライン自身も、多くのテーマで質の高い研究が足りないと書いています。
根拠の確かさが低い推奨は、これからの研究で変わるかもしれません。そのつもりで読んでください。
推奨1:授乳は、2歳かそれ以上まで続ける
補完食を始めたあとも、授乳を続けることをすすめています。強い推奨で、根拠の確かさは「とても低い」です。
WHOが理由に挙げているのは、母乳が1歳を過ぎても、カロリーやビタミン、ミネラルをたくさん届け続けることです。病気で食事を受けつけないときにも、母乳は飲めることが多いと書いています。
同時にWHOは、授乳を続けるには支えが要るとも書いています。職場の授乳室や保育、相談できる場所です。お母さんひとりの努力で決まる話ではありません。
日本の支援ガイドにも、離乳の完了は母乳やミルクを飲んでいない状態を意味しない、と書かれています。やめる時期は、その家の事情で決めて構いません。
推奨2:母乳以外の乳は、1歳の前と後で分かれる
母乳のかわりに、ほかの乳を飲ませる場合の推奨です。条件つきの推奨で、根拠の確かさは「低い」です。
6〜11か月は、育児用ミルクでも、牛乳などの動物の乳でもよいとしています。1歳からは動物の乳をすすめ、フォローアップミルクはすすめないとしています。
動物の乳を6〜11か月で使うなら、脂肪を抜いていないものにすること。味つきや甘くした乳は使わないこと。これも書き添えられています。
日本では、牛乳を飲みものにするのは1歳からです
日本の支援ガイドは、牛乳を飲用として与えるなら、鉄欠乏性貧血の予防のために1歳を過ぎてからが望ましいとしています。
このサイトも、日本で暮らす家庭には牛乳を飲用するのは1歳まで待つことをすすめます。料理に使うぶんは、1歳前でも構いません。
違いの理由のひとつは、WHOが世界中の家庭を相手にしていることです。育児用ミルクは値段が高く、手に入りにくい国もあります。WHOは、費用を考えると動物の乳に傾くと書いています。
そのWHOも、6〜11か月では育児用ミルクのほうが、鉄やビタミンDの数値に利点があったとまとめています。動物の乳でもよいとしたのは、肉や魚、鉄の補給など、ほかの方法で鉄を補えるからです。
6〜11か月に牛乳を飲ませることには意見が分かれている、ともWHOは書いています。1歳を過ぎてからの牛乳とフォローアップミルクの話は、牛乳の記事にまとめました。
推奨3:始めるのは6か月から
補完食は6か月、つまり生後180日で始め、授乳は続ける。強い推奨で、根拠の確かさは「低い」です。
ただしWHOは、もっと早く始めたほうがよい赤ちゃんもいると認めています。豊かな国の小児科の学会は、4〜6か月を目安にしていることが多い、とも書いています。
日本の支援ガイドは、生後5〜6か月頃が適当としています。首のすわりがしっかりしている、5秒以上座れる、食べものに興味を示す。こうした様子を目安にします。
WHOと日本でひと月ほどずれますが、どちらも赤ちゃんによって差があることを認めています。始めるサインは補完食の記事に書きました。
早く生まれた子、小さく生まれた子の鉄
WHOは、こうした子は鉄が足りなくなりやすいと書いています。食事を早く始めても、それだけでは貧血を十分に防げない、とも。早産で生まれたお子さんや基礎疾患があるお子さんの鉄の補い方は、かかりつけの小児科医に相談してください。
推奨4:肉・魚・卵は毎日。主食ばかりにしない
いろいろな食べものを食べる、という推奨です。中身は3つに分かれています。
- 肉・魚・卵を、毎日食べる
- 果物と野菜を、毎日食べる
- 豆・ナッツ・種を、よく食べる。肉や魚、野菜が少ないときはとくに
はじめの2つは強い推奨で、根拠の確かさは「低い」。豆・ナッツ・種は条件つきで、「とても低い」です。
付け加えの説明には、ごはんやいもなどの主食は最小限に、とあります。主食は、鉄や亜鉛、ビタミンB12のよい供給源にならないからです。穀物を使うなら、精白していないものを優先するよう書かれています。
日本の支援ガイドは、おかゆから始めて、野菜、豆腐や白身魚、卵黄と広げていく順番です。肉が入ってくるのは、そのあとです。
WHOの推奨には、食材を入れる順番は出てきません。6〜23か月を通して、肉・魚・卵を毎日とることをすすめています。
何をどれくらい食べれば鉄が足りるかは鉄の記事に、おかゆのカロリーの話はカロリーの記事にあります。
ナッツと豆は、粒のまま与えない
WHOも、窒息しない形で与えるよう注意しています。ナッツは粉やペーストにして使ってください。
ピーナッツを始める時期についてはアレルギーの記事に書きました。湿疹がある子は、始める前に小児科医に相談してください。
推奨5:甘いもの、塩辛いもの、甘い飲みものは与えない
次の3つは「とらない」とする、強い推奨です。
- 砂糖や塩、トランス脂肪酸の多い食べもの
- 砂糖の入った飲みもの
- 砂糖のかわりに使う甘味料
トランス脂肪酸は、一部の加工した油脂に含まれる脂です。果汁100%のジュースは「控えめに」とされていて、こちらは条件つきの推奨です。
日本の支援ガイドは、始めたばかりの時期に調味料はいらないとしています。進んでからも、薄味にすること。はちみつは1歳を過ぎるまで与えないことも書かれています。
果汁については、離乳を始める前に果汁やイオン飲料を与える栄養上の意味は認められていない、としています。味つけの目安の量は、食材の疑問の記事にのせました。
推奨6:サプリと栄養強化食品は、食事で足りない場面のためのもの
ふつうの食べものだけでは栄養が足りない状況で、サプリメントや栄養を強化した食品が役に立つことがある。そういう推奨です。
挙げられているのは3つです。ビタミンやミネラルの粉を食事にふりかけるもの。穀物でできた市販の離乳食に、栄養を加えること。食料が足りない地域向けの、栄養を加えたペーストです。
3つとも「状況による推奨」です。そして、いろいろな食べものからなる食事の代わりにはならない、とはっきり書かれています。
穀物の離乳食への強化については、すでにそれを食べている地域で栄養を増やせる、という位置づけです。食べることをすすめるものではない、とも書いています。
このサイトでは、鉄を添加したライスシリアルなどを紹介しています。WHOがすすめているから載せているのではありません。肉や魚、卵、育児用ミルクで足りない分を補う手段のひとつとして、商品の一覧に置いています。
推奨7:子どものサインに合わせて食べさせる
WHOの言葉では「応答的な食べさせ方」です。強い推奨で、根拠の確かさは「低い」です。
子どもは、おなかがすいた、もういらない、を体の動きや表情、声で知らせます。大人はそれに気づいて、すぐに、やさしく応える。そのくり返しのことです。
研究で多く取り入れられていたのは、無理に食べさせない、ほめる、自分で食べるのを後押しする、家族で楽しく食べる、といったことでした。
WHOは、これを続けるには、食べる間そばにいる時間と、手づかみでこぼしても困らない余裕が要るとも書いています。
日本の支援ガイドも、手づかみ食べを積極的にさせたい行動としています。食べてくれない日の考え方は、食べてくれないときの記事に書きました。
回数・濃さ・かたさは、このガイドラインにはありません
2023年版には、1日に何回食べるか、どれくらいの濃さにするか、かたさをどう進めるか、の推奨はありません。
これらは、置き換えられる前の2003年の指針に書かれていました。このサイトのカロリーの記事が、月齢ごとのカロリーを2003年の指針から引いているのはそのためです。
かたさの進め方は、かたさと形の記事にまとめています。
出典
- WHO. Guideline for complementary feeding of infants and young children 6–23 months of age. Geneva: World Health Organization; 2023.(推奨の文言と強さはExecutive summaryから、推奨2と推奨3の理由は本文の各推奨の章から要約しました。2026年9月に確認)
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019年改定版)(現在はこども家庭庁のサイトに掲載)
- WHO/PAHO. Guiding principles for complementary feeding of the breastfed child. 2003.(2023年版に置き換えられた旧版)
WHOのガイドラインは CC BY-NC-SA 3.0 IGO で公開されています。この記事は著者による要約で、WHOが作成したものではありません。WHOはこの内容と正確さに責任を負いません。正式なのは英語の原文です。
このサイトの情報は一般的な医学情報であり、個別の診療の代わりになるものではありません。お子さんの状態については、かかりつけの小児科医にご相談ください。
また、ここに書かれている内容は著者個人の見解であり、所属する機関を代表するものではありません。